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東京高等裁判所 平成11年(ネ)612号 判決 1999年7月27日

控訴人 株式会社第三企画

右代表者代表取締役 草薙三郎

右訴訟代理人弁護士 工藤舜達

同 大沢正一

被控訴人 グラスコート板橋管理組合

右代表者理事長 鵜澤俊博

右訴訟代理人弁護士 桝井眞二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、マンション「グラスコート板橋」の管理組合である被控訴人が、管理規約に基づき同マンション内の駐車場(以下「本件駐車場」という。)の専用使用権を有していた控訴人に対し、右専用使用権を消滅させる旨の規約変更(以下「本件規約変更」という。)をしたとして、本件駐車場の明渡しと使用損害金の支払を求めた事案である。原判決は、被控訴人の請求を認容したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

1 本件マンションの分譲契約書、重要事項説明書及び当初の管理規約には、本件駐車場は控訴人が使用する旨明記されていたから、本件駐車場は、本件マンションの専有部分にも共用部分にも含まれていない。本件駐車場の専用使用権は、控訴人が原始的に取得した既得権である。したがって、控訴人の同意がないのに、管理規約の変更によって、控訴人の右専有使用権を一方的に剥奪することはできない。

2 本件規約変更の決議をした平成八年一二月二八日の臨時総会の議事録には、控訴人の専用使用権を喪失させる旨の決議をしたとの記載はなく、また、そのような決議はされていない。また、本件規約変更も、控訴人の専用使用権を喪失させることを定めたものではない。本件規約変更は、今後、控訴人の専用使用権が消滅した場合には、被控訴人が特定の区分所有者に本件駐車場の専用使用権を与えることができることを定めたものにすぎない。

3 被控訴人の総会においては、一戸が一議決権を有する。本件マンションの戸数は五三戸(控訴人、有限会社ふくや及び中山房子が各二戸)である。しかし、本件規約変更の決議をした平成八年一二月二八日の臨時総会の議事録には、議決権総数五〇と記載されている。したがって、右決議は、成立手続に瑕疵があり、無効である。

4 控訴人は、本件規約変更を承諾していないから、右規約変更は、無効である。また、控訴人は、被控訴人に対し、当初の管理規約で定められていた本件駐車場の専用使用料一〇〇〇万円を支払ったものとみなされること(後記5参照)、本件駐車場は、控訴人及びその関連会社の業務にとって必要不可欠なものであり、これなくしては、控訴人の経営が成り立たないこと、被控訴人や本件マンションの各購入者は、本件駐車場を特に必要とはしていないこと、特定の区分所有者に本件駐車場の専用使用権を与えると、ゴミ収集車、配送車等が本件駐車場で作業をすることができなくなり、住民に不便を与えることからみて、控訴人が本件規約変更を承諾しないことには、正当な理由がある。

5 控訴人は、平成七年一〇月ころ、被控訴人の当時の理事長岩切裕との間で、本件マンションの修繕が必要になるのは一〇年以上先であるから、それまでは、控訴人が本件駐車場の専用使用料一〇〇〇万円を預かり、被控訴人にその運用収入として毎年六〇万円(年六%の割合)を納入すること、被控訴人は、これを経常管理費として使用することを合意(以下「本件合意」という。)した。そして、控訴人は、右合意に従い、被控訴人に毎年六〇万円を払っている。したがって、控訴人は、右一〇〇〇万円を支払ったものとみなされる。そうでないとしても、右一〇〇〇万円の支払時期を平成一六年三月末とする旨の合意があるから、その弁済期は、到来していない。なお、右一〇〇〇万円の未払と本件駐車場の控訴人の専用使用権を喪失させることとを結びつけるべきではない。

6 本件駐車場の相当賃料月額が一〇万五〇〇〇円であるとの根拠は何もない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  本件紛争の経緯

当事者に争いがない事実と証拠(甲二から六まで、一〇から二一まで、二三から二五まで、乙一から三まで)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件マンションは、平成五年三月に完成し、控訴人によって分譲された。その際に作成された当初の管理規約一六条は、本件駐車場が共用部分であることを前提として、「本件駐車場三台分の専用使用権は控訴人が所有する。専用使用権代金一〇〇〇万円は修繕積立金として控訴人が被控訴人へ納入する。」旨定めていた。分譲の際の重要事項説明書及び売買契約書にも、右管理規約の定めを前提として、「本件駐車場は、控訴人が使用する」と記載されていた。そして、本件駐車場は、共用部分として登記された。

(二) 控訴人は、管理規約に定める専用使用権の代金一〇〇〇万円を支払わなかったので、被控訴人は、平成六年四月一三日、控訴人に対し支払を求めた。これに対し、控訴人は、同月二八日、諸事情のため、直ちには払えないので、遅延に関する利息年六%を支払う旨回答するとともに、控訴人の代表者草薙三郎が個人で一〇〇〇万円の支払債務を保証した。しかし、その後も、代金一〇〇〇万円が支払われなかったので、被控訴人は、平成七年四月八日、再度控訴人に催促した。控訴人は、資金繰りが苦しいので、支払うことができないが、余裕ができたら支払う旨回答した。

(三) 控訴人からの代金一〇〇〇万円の支払がなかなかないので、被控訴人は、平成七年一〇月一日の臨時総会で善後策を検討した。何人かの参加者から、このままでは、組合員の修繕積立金の負担が増えるので、控訴人に本件駐車場を明け渡してもらい、第三者に貸して使用料をとってはどうかとの意見も出たが、改めて控訴人の意見を聞いた上で決定することとし、理事会で細部を詰めることとされた。なお、控訴人は、右総会に欠席したが、代金一〇〇〇万円の支払が遅れていることを詫びる旨の書面を提出した。その後、平成八年六月一六日に開催された被控訴人の定例総会でも、代金一〇〇〇万円の未納問題が取り上げられ、再度控訴人と話し合うこととされた。そして、被控訴人の理事会のメンバーは、平成八年七月一三日、控訴人に対し、直ちに代金一〇〇〇万円を払うか、そうでなければ本件駐車場を明け渡すことを求めたが、控訴人は、業務に支障が出るとの理由から明渡しを拒み、また、代金一〇〇〇万円の支払については、他の分譲マンション完売まで今しばらくの猶予を求めた。このような控訴人の対応を見て、被控訴人の理事会は、代金一〇〇〇万円が支払われる可能性は乏しいものと判断し、総会の承認を得て、控訴人に本件駐車場の明渡しを求めることにした。

(四) そこで、被控訴人は、平成八年一二月九日、控訴人に代金一〇〇〇万円の支払を求める最後通牒を発した上、同月二八日、臨時総会を開き、管理規約一六条を「区分所有者は、本件駐車場について、被控訴人が特定の区分所有者に対し、専用使用権を設定することを承認する。」と変更する旨の決議をした(本件規約変更)。そして、被控訴人は、平成九年三月、控訴人に対し、本件駐車場の明渡し等を求める本訴を提起した。

(五) なお、控訴人は、平成六年三月から、被控訴人に対し、代金一〇〇〇万円の遅延利息として年額六〇万円を支払っている(前記(二)参照)。

2  控訴人の当審における主張1、2及び4について

右1の事実によれば、控訴人は、本件マンションの分譲当初に、管理規約の定めに基づき、共用部分である本件駐車場の専用使用権を取得し、その対価として、被控訴人に代金一〇〇〇万円を支払う義務を負っていたものである(本件駐車場が共用部分に属することは、原審における本人尋問において控訴人代表者も自認しているところである。)。

しかし、控訴人は、被控訴人の再三にわたる催促にもかかわらず、使用権の代金一〇〇〇万円を支払わないので、被控訴人は、控訴人に本件駐車場の明渡しを求めるため、平成八年一二月二八日の臨時総会で本件規約変更の決議をしたことは、右1の事実から明らかである。また、本件規約変更は、控訴人の専用使用権の根拠規定である管理規約一六条を全面的に改め、右根拠規定をなくしたものである。したがって、本件規約変更は、控訴人の専用使用権を消滅させる趣旨であると認められる。

そして、『控訴人の専用使用権は、当初の管理規約においても、代金一〇〇〇万円を支払うことと対価関係を有するものとして設定されたものであり、対価である一〇〇〇万円を支払わずに、本件駐車場を専用的に使用する権利まで認められていたわけではない。したがって、控訴人が代金一〇〇〇万円を支払わない以上、控訴人が専用使用権を取得できないのは、当初の管理規約においてすでに定められていたものといえるのであって、控訴人の専用使用権を消滅させる旨の本件規約変更は、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではない。したがって、控訴人の承諾がなくとも、本件規約変更は有効である(建物の区分所有等に関する法律三一条一項)。』なお、規約の変更に控訴人の承諾を要するとしても、控訴人は、当初の管理規約で定められた専用使用権の代金を支払わないのであるから、本件規約変更を承諾しないことについて正当な理由があるとは認められない。このことは、本件駐車場が控訴人の業務にとって必要不可欠である等控訴人主張の諸事情があったとしても、変わりはない(なお、控訴人が代金一〇〇〇万円を支払ったものとみなされるものでないことは、後記4参照)。

3  控訴人の当審における主張3について

被控訴人の総会においては、一戸が一議決権を有し、管理規約を変更するには、組合員の総数及び議決権総数の四分の三以上の多数による総会の決議を要する(乙三の管理規約四五条一項、四六条三項)。被控訴人の組合員総数は五〇名であるが、本件規約変更の決議をした平成八年一二月二八日の臨時総会は、四二名の組合員が出席し、その全員が本件規約変更に賛成した(甲二)。したがって、控訴人主張のとおり、本件マンションの戸数が五三戸で、議決権総数が五三であったとしても、その四分の三以上の多数が本件規約変更に賛成しているから、臨時総会の右決議に瑕疵はない。なお、臨時総会の議事録(甲二)に議決権総数が五〇と記載されているからといって、実質的な決議要件を充足している以上、決議が無効となるものでないことは、明らかである。

4  控訴人の当審における主張5について

控訴人主張の本件合意があったことを認めるに足りる証拠はない。

原審において、控訴人代表者本人及び証人岩切裕は、本件駐車場の専用使用権の代金一〇〇〇万円の未納問題が話し合われた平成七年一〇月一日の被控訴人の臨時総会終了直後に、被控訴人の理事会が開かれ、控訴人から年六%の利息を払ってもらうこととして、代金一〇〇〇万円の支払は一〇年間猶予する旨決定し、これを控訴人代表者に伝えたと供述する。

しかし、右理事会の議事録は、証拠として提出されておらず、また、その後の被控訴人の総会で支払を猶予することとしたとの報告がされた形跡もない。かえって、被控訴人は、平成八年になっても、再度、総会でこの問題を取り上げ、その後、控訴人に対し代金一〇〇〇万円の支払を求めている。これに対し、控訴人は、一〇年間の支払猶予が認められている旨の主張はせず、他の分譲マンション完売まで今しばらくの猶予を求めるとの対応をしたところである(前記1(三))。これらの事情を考えると、控訴人の主張に沿う右供述は、採用することができない。他に被控訴人が代金一〇〇〇万円の支払を猶予したことを認めるに足りる証拠はない。

なお、控訴人の専用使用権は、代金一〇〇〇万円と対価関係にあるものであることは、前記2で述べたとおりである。たとえ右の一〇〇〇万円について遅延利息が支払われていても、そのことと、代金一〇〇〇万円が現実に支払われることとは、同じではなく、経済効果として大きな違いがある(控訴人が倒産すれば被控訴人は代金一〇〇〇万円を手にすることはできない。)。したがって、代金一〇〇〇万円の未払は、控訴人の専用使用権を喪失させる理由とはならない旨の控訴人の主張は、失当である。

5  控訴人の当審における主張6について

原審における被控訴人代表者本人尋問の結果によれば、本件マンションの近隣駐車場の使用料の相場は、月額三万五〇〇〇円であることが認められる。したがって、本件駐車場(三台分)の使用料相当額は、月額一〇万五〇〇〇円である。

控訴人の主張は、いずれも採用することができない。

二  したがって、被控訴人の請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 菊池洋一 裁判官 柳田幸三は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 淺生重機)

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